発刊:2021年1月7日
価格:2,500円(+消費税)
判型:B5判
頁数:128頁
ISBN978-4-907083-67-0 C0040

特集
福島の記憶・記録
複合災害と「文化」のレジリエンス

複合災害から10年を迎える福島で、その地が育んできた歴史や文化を復元する作業、震災時の記憶を記録するための様々な活動を取り上げる。地域の多様な「文化」を未来へと継承していくための、創造的な取り組みを通して、真の復興とは何かを考える。

目次
特集
福島の記憶・記録
複合災害と「文化」のレジリエンス

12 巻頭言 複合災害被災地の過去・現在・未来 西村慎太郎
14 複合災害地における歴史的実践 福島県浜通りの大字誌 西村慎太郎
22 いわき市での民俗芸能の継承 田仲桂
30 東日本大震災と変わりゆく生活文化 川内町での民俗調査から 金子祥之
38 福島の歴史・文化遺産の記録 福島大学学生による文化財レスキュー 阿部浩一
46 避難所で生まれた「災害史料」 双葉町の経験を伝え、共有する 川上真理
54 「記憶資料」の保全活動 全町避難から始まった富岡町の聞き取り事業 門馬 健
62 大熊町震災記録誌『福島第一原発、立地町から。』 誰のために、何のために残すのか 喜浦 遊
70 大熊町の帰還困難区域のフロッタージュ製作 先人たちが残した碑文から震災遺産まで 鎌田清衛
78 ミュージアムに何ができるのか? 福島県立博物館の実践から 佐藤李青
86 未来に届けたい福島県で紡がれた日々 映像制作を通して出会った福島の人々のこと 椎木透子

ミニ連載
98 ヴィンテージ・アナログの世界 レコード・レーベルの黄金期㉕ 高荷洋一
102 平家納経を考える③ 平清盛筆 願文 恵美千鶴子

連載
106 動物たちの文化誌㉚ 牛の歩みのごとく 早川篤
114 欧州グリーンインパクト⑥ フランスのスローフラワー運動 遠藤浩子

口絵の作品
122 時のイコン 東日本大震災の記憶 六田知弘

今号ではこの地域の「文化」を軸とした論稿を揃えてみた。どの論稿を読んでもこの地域の過去・現在・未来を熱く語っているものとなっている。読者各位にはここに刻まれた多様な「文化」を踏まえて、今一度、複合災害被災地域のことに思いを寄せてもらいたい。そして、本書には描き切れなかった当該地域の「文化」にも触れてみてもらいたい。(西村慎太郎・巻頭言より)

著者紹介
西村慎太郎:人間文化研究機構国文学研究資料館准教授、NPO法人歴史資料継承機構じゃんぴん代表理事。1974東京都生まれ。学習院大学大学院満期資格取得退学。専門は歴史学。歴史資料の保全を地域住民たちと進め、地域の歴史像を構築する。著書に『宮中のシェフ、鶴をさばく』(吉川弘文館、2012年)、『生実藩』(現代書館、2017年)など。

田仲 桂:民俗芸能の継承者。1978年福島県いわき市生まれ。いわき市文化財保護審議会、福島県文化振興審議会の委員をつとめる。専門は歴史学、日本近世史。NPO民俗芸能を継承するふくしまの会に所属し、地域につたわる有形・無形の文化遺産の調査と保存・活用に取り組む。

金子祥之:東北学院大学講師。1985年、千葉県館山市生まれ。早稲田大学大学院修了。専門は日本民俗学・村落社会学。民俗学の視点から、災いに対する地域社会の適応策を共時的・通時的に研究している。共著書に、『原発災害と地元コミュニティ』(東信堂)、『災害と村落』(農文協)など。

川上真理:筑波大学図書館情報メディア系研究員。1978年福島県生まれ。法政大学大学院修了。専門は日本近世史、芸能史。存在証明としての資料保存を重視し、震災資料や被災古文書の整理・調査に取り組んでいる。

阿部 浩一:福島大学教授。1967年東京都生まれ。東京大学大学院修了。専門は日本中世史。東日本大震災以降、福島県内の歴史資料保全活動に取り組む。著書に『戦国期の徳政と地域社会』(吉川弘文館)、『ふくしま再生と歴史・文化遺産』(共編著、山川出版社)などがある。

門馬 健:富岡町生涯学習係長。1983年福島県いわき市生まれ。東北大学大学院修了。専門は幕末政治史。2014年、役場内に原発被災地域の資料保全チームを組織、地域資料や震災遺産の保存活動を続ける。

喜浦 遊:福島県大熊町役場教育総務課主査。1981年長崎県生まれ。2016年4月に社会人採用で大熊町役場入庁。企画調整課に配属され、震災記録誌作成事業を担当した。現在は町の歴史や震災の経験を記録し、後世に伝えるための「アーカイブズ事業」を主に担当している。

鎌田清衛:和梨・洋梨の果樹園を経営する傍ら、大熊町内の板碑や記念碑などのフロッタージュを続けている。大熊町文化財保護審議委員、おおくまふるさと塾顧問。著書に『日隠山に陽は沈む』(歴史春秋社出版)、『残しておきたい大熊のはなし』(歴史春秋社出版)がある。

椎木透子:映像作家・写真家。2005年より米国に移住。ドキュメンタリーを中心に写真および映像制作に国内外で携わる。

佐藤李青:アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー。宮城県生まれ。東京大学大学院博士課程満期退学。東京アートポイント計画、Tokyo Art Research Lab、Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)を担当。共著に『文化政策の現在』(東京大学出版会)など。