発刊:2020年10月6日
価格:2,500円(+消費税)
判型:B5判
頁数:128頁
ISBN978-4-907083-62-5 C0040

特集
富士山から持続可能な未来へ
自然・社会・文化・まちのネクサス

今号では、日本の象徴として「人と自然のあるべき姿」を示してきた富士山を通じて、持続可能な未来を考えます。とくに、自然(自然 環境)、社会(観光など経済を含む社会環境)、心(信仰や芸術、文化)の3つの視点から新しい富士山像を描くため、環境・社会・経済の調和を、ネクサス(連環)という新しい切り口で提示しています。また、忍野村での、専門家と地域の協働による地下水調査にもスポットをあて、自然・文化資源を生かした新しい時代の社会創出を提案しています。

目次
特集
富士山から持続可能な未来へ
自然・社会・文化・まちのネクサス
総合地球環境学研究所 編

4 巻頭言 持続可能な社会と富士山 谷口真人

Part 1 自然と環境のネクサス
16 富士山と越境大気汚染 地球大気環境を監視する 大河内 博
24 富士山と気候変動 野村渉平‎・向井人史
28 富士山北側の植生環境 「貴重な自然」はどのように守られてきたか 齋藤暖生
36 忍野八海と忍野村の地下水 藪崎志穂
44 富士山の水資源・水環境 戸崎裕貴

Part 2 社会と文化のネクサス
52 富士山の湧水とコモンズ 水神信仰から生態系サービスへ 秋道智彌
60 富士山麓の管理草地 現代の入会地と里山環境の持続 小笠原 輝・大脇 淳・藤野正也
68 遺跡と富士山信仰から見た忍野の水文化 水神土器が意味するもの 新津 健
76 信仰の山・富士山 堀内 亮

Part 3 経済とまちづくりのネクサス
84 富士山と持続可能な観光 地域マネジメントと観光まちづくり 梅川智也
94 ローカルSDGsから見える地域の強み 富士山麓自治体を事例として 増原直樹
100 自治体や住民と行う同位体環境学 環境トレーサビリティの実践 陀安一郎
108 持続可能な地下水保全をめざす環境トレーサビリティ手法 藤吉 麗
114 コラム 富士山と湧水の織りなす風景を継承するために 大森 昇

ミニ連載
116 ヴィンテージ・アナログの世界 レコード・レーベルの黄金期㉔_高荷洋一
120 平家納経を考える② 宝塔品_恵美千鶴子

著者紹介
谷口真人:総合地球環境学研究所教授。1959年石川県生まれ。筑波大学大学院修了。専門は、地下水学・地球環境学。地域と地球をつなぐ視点で、水・エネルギー・食料の連関(ネクサス)研究や、大気・陸域・海域の境界における地下水研究などの学際研究に取り組む。著書に、『地下水流動:モンスーンアジアの資源と循環』(共著、共立出版、2007年)などがある。

秋道智彌:山梨県立富士山世界遺産センター所長。総合地球環境学研究所名誉教授。1946年生まれ。人間文化研究機構の連携研究「人と水」代表として、2005~09年、岩手県大槌町、山形県遊佐町、愛媛県西条市、京都市などで湧水調査に従事。2020年度より静岡県の「森は海の恋人」水の循環研究会顧問。

大河内 博:早稲田大学創造理工学部教授。1965年神奈川県生まれ。専門は環境化学。医者が人を診断・治療するように、地球を診断・治療するアースドクターを目指す。認定NPO法人富士山測候所を活用する会副理事長。著書に『地球・環境・資源:地球と人類の共生を目指して』(共立出版)、『越境大気汚染の物理と化学』(成山堂)がある。

戸崎裕貴:国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層・火山研究部門研究員。1980年生まれ。筑波大学助教、産業技術総合研究所特別研究員などを経て、2015年より現職。専門は、同位体水文学。水質・同位体を手がかりに、地下水の流動や滞留時間に関する研究に取り組む。

藪崎志穂:総合地球環境学研究所研究員、福島大学客員准教授。1975年千葉県生まれ。地下水や湧水などの現地調査と水質や同位体などの分析を通じて、各地の水循環の解明に努めている。共著書に『地下水と水循環の科学』(古今書院)、『裏磐梯・猪苗代地域の環境学』(福島民報社)などがある。

齋藤暖生:東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林講師。専門は森林政策学、森林-人間関係学、植物・菌類民俗、コモンズ論。共編著『森林と文化:森とともに生きる民俗知のゆくえ』(共立出版)、共著『人と生態系のダイナミクス2 森林の歴史と未来』(朝倉書店)などがある。

小笠原輝:山梨県富士山科学研究所主任研究員。1972年北海道生まれ。専門は生態人類学、環境民俗学。地域の生業と環境、その相互の変化について研究を行う。

新津 健:元山梨県埋蔵文化財センター所長。1949年山梨県生まれ。専門は考古学・文化財保護。発掘調査の成果を史跡や文化財の保護に活用。富士山世界文化遺産の登録にあたり文化的価値の調査・研究に従事。著書に、『猪の文化史』考古編、歴史編(雄山閣)、『大配石と異形の土偶・金生遺跡』(新泉社)などがある。

堀内 亨:山梨県立富士山世界遺産センター主幹。1965年山梨県生まれ。信州大学人文学部卒業。2018年より現職。同センターの企画展の開催や山梨県富士山総合学術調査委員会による調査研究成果の取りまとめに従事する。

梅川智也:國學院大学研究開発推進機構教授。1958年新潟県生まれ。専門は、観光政策・観光地経営・観光まちづくり。長年、全国の観光地の現場で観光計画の策定と実現に向けた実践と研究に取り組む。著書に、『観光地経営の視点と実践』(共著、丸善出版)などがある。技術士(建設部門/都市及び地方計画)。

増原直樹:総合地球環境学研究所上級研究員。1974年千葉県生まれ。専門は、環境・エネルギー政策。地域課題に関する統計データと関係者の利害関心、自治体政策を統合した分析をとおして、持続可能な地域づくり、再生可能エネルギーの普及に取り組む。共著書に、『地熱資源をめぐる水・エネルギー・食料ネクサス』(近代科学社)などがある。

陀安一郎:総合地球環境学研究所・研究基盤国際センター教授。1969年京都市生まれ。専門は、同位体生態学・同位体環境学。同位体分析を基に、生態学をはじめとする幅広い分野の研究に取り組む。現在、同位体分析を環境学に用いる「同位体環境学」の共同研究を推進。著書に、『同位体環境学がえがく世界2020年版』(共著、総合地球環境学研究所)など。

藤吉麗:総合地球環境学研究所プロジェクト研究員。1985年北海道生まれ。北海道大学大学院環境科学院で学位を取得。2017年6月より現職。専門は同位体環境学。兵庫県千種川流域において、川の中の窒素(硝酸イオン)やイオウ(硫酸イオン)がどこからきたか、どのように動いているか、起源と動態を、安定同位体を用いて調べている。

大森 昇:忍野村会計管理者。1985年4月忍野村役場入庁後、建設課、教育委員会、水道課、観光産業課、企画課などを経て、2020年4月より現職。